第12章 鳥類の時代【5000 ~ 250万年前】
鳥類の進化は大きな研究テーマの一つであり、議論の絶えない分野でもある。
鳥類の起源については、研究者の間で主に次の二つの見解が存在する。
- 一つは、鳥類が恐竜以外の双弓類(爬虫類に似た動物)から進化したという考え方、つまり恐竜の祖先と同じグループの動物から生じたとする見解である。
- もう一つは、鳥類が直接恐竜から進化したとする見解である。
過去10年の間に主に中国で、1億3000万年前~1億1500万年前の白亜紀の岩石から多数の鳥の化石が発見された。

- その結果、私たちになじみ深い尾骨の短い鳥が登場する前に、長い尾骨をもつ多種多様な鳥類が存在していたことが明らかになった。さらに、
- 恐竜起源説を確固たるものとしたのは、中国で発掘された二種類の「羽毛恐竜」であった。一つは1億4500万年前~1億2500万年前のもの、次に見つかったのはそれより後の白亜紀前期のものである。
現在、アフリカ本土を除く全ての大陸で、中生代の地層から120種以上の鳥類が確認されている。新しい情報が得られているにもかかわらず、鳥類の進化に関しては、依然としていくつかの問題点が議論されている。
- その一つが「現生鳥類(新鳥類)の誕生と多様化の時期」である。
鳥類は白亜紀(約1億4500万年前~約1億年前までの前期と1億年前~6500万年前までの後期に分かれる)最古の地層からも発見されている。白亜紀前期の鳥類は、短期間のうちに様々な形とサイズの進化したと考えられる。

『コウシチョウ(孔子鳥)』のように、カラスほどの体長で頑丈な嘴をもち、翼に大きな鉤爪のついた鳥も存在した。サペオルニスのように、長くて幅の狭いカモメのような翼をもったものもいた。エオエナンティオルニスやイベロメソルニスなどは、さらに小型でスズメ大である。
白亜紀前期のこれらの鳥は、飛行の面では進化していたが、『始祖鳥』のように顎に歯のあるタイプであった。しかしながら、頭蓋骨や翼や足の多様から、すでに様々な生活様式の種に分岐していたことが認識されている。食物も、種子、魚、昆虫、樹液、動物の肉など多岐にわたっていたと推定される。翼や胸郭の構造から考えると、始祖鳥の誕生からそれほど時間が経っていないにも関わらず、現生鳥類とほとんど変わらない飛行能力を既に進化させていたことが推察される。
先述のように、多くの進化的特徴にも関わらず、鳥類は歯という原始的な名残りを留めていた。現生鳥類には歯がなく、多様な食性に適応するために角質の嘴が各種の形態をとっている。
では、歯のない鳥類が初めて出現した時期はいつなのであろうか。この問いについては、依然として見解の一致を見ていない。
歯をもたない「現生鳥類」は、白亜紀の祖先である歯をもつ鳥類から進化した。しかしこれは、前者が後者を置き換えるというよりも、新たな種が加わる形の進化であった。というのも、歯や長い尾を持つ原始的な鳥類は、その後も翼を持つ爬虫類(白亜紀後期に優勢となった最大の飛行動物を含む)と並んで繁栄し、多様化を続けていたからである。

- 歯を持つ種は白亜紀末まで生息していたが、K-T境界イベントにより最終的に絶滅した。少なくとも、『ヘルクリーク累層』の鳥類の化石に関する最新の知見を総合すると、そう推定される。
なお、「ヘルクリーク累層」はアメリカ西部の内陸部に位置し、白亜紀末の風景を最も完全な形で保存している地層として知られている。ここからはトリケラトプスやティラノサウルス・レックスのほか、原始的な形態を留めた多くの鳥類の化石が発見されている。
K-T境界を生き延びたのは、比較的原始的な『古顎類』(注187)であった。この系統には、ダチョウやレア、ヒクイドリのような飛べない大型の陸鳥が含まれる。さらに、最近絶滅したニュージーランドの巨大なモア鳥や、過去1000年間に人類によって絶滅させられたマダガスカルのエピオルニスもこの系統に属していた。また、今日よく見かける鳥(水生のカモや陸生のキジカモ類、飛行能力が最も高いその他の新顎類(注188)の中には、古顎類を祖先に持つものも存在する。
(注187)鳥類に属する脊椎動物の一群であり、一部では『走鳥類』とも呼ばれる。現生鳥類を含む系統である『新鳥類』は、原始的な「古顎類」と進化的な「新顎類」に大きく分けられる。新顎類は新生代の初期に分岐したと推定されている。古顎類にはダチョウなど地上性・半地上性の一部の鳥類(分類学説により一部の科)が含まれているが、現生鳥類の大部分は新顎類である。
(注188)「新顎類」は、鳥類に属する脊椎動物の一群である。その階級は新顎上目とすることが一般的である。現生鳥類を含む系統である鳥類は、原始的な「古顎類」と進化的な「新顎類」に大きく分けられる。「古顎類」にはダチョウなど地上性・半地上性の数科、約50種が含まれるだけであり、現生鳥類のほとんど、種数にして約99.5%は「新顎類」である。

ヘルクリーク累層を始めとする北米の同時代の岩石からは、これまでに合計17種の鳥類の化石が発見されている。そのうち7種は最も古い原始鳥類で、ヘスペロルニス目に属する鳥類も含まれている。このグループの鳥類は歯をもち、水に潜ることが可能である。代表的なものには、グループの名前の由来であるヘスペロルニスがあり、全長120センチほどの太い潜水鳥である。発掘された化石には比較的小型の鳥のものもあれば、ジュラ紀や白亜紀の最大級の飛ぶ鳥のものも含まれている。
これらの発見は、恐竜時代が終わる頃には鳥類の多様化がかなり進んでいたことを明確に示している。
発見された鳥類の中で、古第三紀まで生き残ったことが確認されているものは存在しない。
- そのため、ヘルクリーク累層(白亜紀の最後を飾るマーストリヒト期末の200万から300万年の地層を含む)にこれらの化石が存在することは、チクシュルーブ小惑星の衝突と時を同じくして、原始鳥類の大量絶滅が実際に起こったことを示 している。
小惑星の衝突に耐え、絶滅せずに生き残ることができる脊椎動物は、鳥類であると言える。鳥類は速やかに分散し、被害の少ない地域へ素早く飛んで移動することが可能であるため、飛べない動物(そして飛べない鳥類)よりも全体的な絶滅率が低いと推測される。
鳥の骨は中空で脆く、化石化しにくいという困難さがある。そのため、鳥類の化石は非常に少ない。しかし、地道に集めた化石のおかげで、今では中生代から新生代への移行期に、鳥類がどのような運命を辿ったのかを少なくとも知識に基づいて推測することが可能である。
大型小惑星の衝突は、恐竜が支配していた世界を一変させ、鳥類型の恐竜だけを生き残らせた。しかし、それから現在までよりも長い時間を、鳥類は白亜紀後期の時点ですでに地球上で過ごしていたのである。
鳥類の多様な分岐
現生鳥類の多様化がいつ始まったかは、化石だけでなく、DNAの解析により探求することが可能である。21世紀の初頭の10年間では、多数の研究が行われ、現存する種(原始鳥類から進化したとされる種)のDNAに基づいて鳥類の新たな『系統樹』が提唱された。
現生鳥類は『新鳥類(新鳥亜綱)』に分類され、その基本的な系統が白亜紀後期に分岐したことが、最近の研究で確認された。

この確認を可能にしたのは、南極のヴェガ島で発見された鳥の化石で、この新種は『ヴェガヴィス』と名付けられている。『新鳥類』は、『古顎類』(シギダチョウ、ダチョウ、エミュー、キーウィ)と『新顎類』(その他のすべての鳥)に大別される。新顎類が現在見られる多様な鳥類へと分岐した時期は、未だに確定していない。しかし、最も信頼性の高い証拠から推測すると、新鳥類の基本的な分岐はKT境界の大量絶滅よりも前に起こったと推定される。このため、ヴェガ島の化石は非常に重要な意味を持つ。ヴェガ島は小さな島で、その南に位置するジェームズ・ロス島は、鳥類の進化に関して重要な発見がなされたことで知られている。
- ヴェガ島での発見は、白亜紀末に非鳥類型恐竜とともに新鳥類が存在したことを示す初めての証拠となった(注189)。
(注189)Julia A. Clarke, Claudia P. Tambussi, Jorge I. Noriega, Gregory M. Erickson & Richard A. Ketcham “Definitive fossil evidence for the extant avian radiation in the Cretaceous”, Nature 433 (2005), 305–308
『マーストリヒチアン期』と呼ばれる白亜紀の最後の期(中生代の最末期)から発掘された稀有な部分骨格は、現存する鳥類の放散を示す決定的な白亜紀の化石として初めて特定された。独立に得られたいくつかの系統学的解析と組織学的データから、この新種の『ヴェガヴィス』は、『カモ目』の水鳥で、本当のカモを含む『カモ科』に最も近縁であることが示されている。
古生物学者にとって長年の悩みとなっている問題がもう一つ存在する。それは、
- 新生代中期に鳥類が再び肉食恐竜に進化しようとした事実である。この中で最も有名なのが『恐鳥類』(注190)である。

(注190)恐竜絶滅後、地上生の鳥類の中から複数の系統が、「手斧のような巨大な嘴」、「強力な脚」、「飛翔能力を失いながら得た大型化した体」を持つ鳥類が誕生し、ネコ科動物やイヌ科動物が優勢となるまで、様々な場所で生態系の頂点に君臨していた。これらは総称して「恐鳥類」と呼ばれるが、それは特定の系統を指すものではなく、総称である。
当時、現在の主要な陸生肉食哺乳類(イヌ科、ネコ科、クマ科、イタチ科等)の全ての祖先となる肉食動物が台頭していたため、恐鳥類との間で激しい生存競争が繰り広げられたのは確かである。DNA解析の結果、マダガスカルの『エピオルニス』は地理的に近いアフリカのダチョウよりも、ニュージーランドの走鳥類と近縁であることが示された。これは驚きであるが、「走鳥類」が飛行能力を失う前に既に分岐していたことを裏付ける重要な証拠となる。
大型で恐竜に似た鳥は現生の走鳥類だけではない。既に絶滅した最大の陸鳥も、中生代の二足歩行型肉食恐竜の体制に戻る傾向を示していた。それは恐鳥類の一種である『フォルスラコス』であり、約6000万年前に南米大陸に出現し、更新世最初の氷期に大規模な氷床が世界中に広がった時期(約200万年前)まで存在していた。少なくとも一部は北米にも進出を果たし、新世代の大半を通じて南米大陸最強の肉食動物として君臨していた。

2010年に、CTスキャン技術を用いた新たな研究により、この巨大な鳥の生態や絶滅の経緯について新たな事実が明らかにされた。この恐ろしい大型捕食者の巨大な嘴は、驚くべきことに中空であった。そのため、嘴は脆く、左右に動かすと破損しやすかったと考えられる。そのため、嘴は斧のように使用し、獲物を捕らえる際には鉤爪のついた強靭な脚を補助的に使用していたと見られる。
飛翔能力を持たない鳥類が一般にそうであるように、恐竜の翼も短くて小さかった。代わりに、その脚は長く力強く、大きな足には鉤爪を持っていた。その筋骨隆々とした脚で走ると、驚異的なスピードが出たことは事実である。平地では、一部の種は時速110キロ程度まで速度を出したと推測されている。南米の大草原では走り回るスペースが十分にあったため、速度は恐らくチーターに匹敵したであろう。強靭な脚力と巨大な嘴、そして恐ろしい鉤爪を備えていたことから、恐鳥が優れた捕食者であったことは間違いない。
また、恐鳥の頭部は非常に大きく、他のどの鳥類よりも大きな脳を持っていた。その情報を聞くと、私たち霊長類としては一抹の不安を覚えるかもしれない。アフリカのヨウムの知能に関する最近の研究から、神経科学者も心理学者も鳥類の知能がこれまで大幅に過小評価されてきたことを認識し始めている。霊長類学者は様々な霊長類が高度な認知機能を持っていることを明らかにしようとしているが、実際には鳥類全般も、地球上に生息した生物の中で最も知的な存在の一つとされるかもしれない。特に恐鳥についてはその評価が当てはまるかもしれない。
図表
図233 シノサウロプテリクスの化石(白亜紀前期)
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「シノサウロプテリクス」
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%8E%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%83%AD%E3%83%97%E3%83%86%E3%83%AA%E3%82%AF%E3%82%B9)
図234 孔子鳥の想像図
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「孔子鳥」
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AD%94%E5%AD%90%E9%B3%A5)
図235 ヘルクリーク累層の動物たち
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「ヘルクリーク累層」
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%98%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%AF%E7%B4%AF%E5%B1%A4)
図236 ヘスペロルニスの想像図
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「ヘスペロルニス」
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%98%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%83%AD%E3%83%AB%E3%83%8B%E3%82%B9#:~:text=%E3%83%98%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%83%AD%E3%83%AB%E3%83%8B%E3%82%B9%EF%BC%88%E5%AD%A6%E5%90%8D%EF%BC%9AHesperornis%EF%BC%89%E3%81%AF,%E3%81%A8%E3%82%82%E6%8E%A8%E6%B8%AC%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82)
図237 ヴェガヴィスの想像図
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「ヴェガヴィス」
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%82%AC%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%82%B9)
図238 エピオルニス
CRYPTID WIKI
(https://cryptidz.fandom.com/wiki/Elephant_Bird)
図239 フォルスラコスの想像図
絶滅動物図鑑「フォルスラコス」
(https://zetsumetsudoubutsu.com/phorusrhacos.php)