物語り・その28

物語り その28

フランシス・ベーコンから始まった「科学的方法」によって技術開発が加速度的に進行するようになると、その性能が、ある期間一定間隔で繰り返し倍増し続けていることが明確となってきた。一方、「コンピュータ」が第三の時代の終わりに登場し、倍加で進化し始めたが、さらに時代が進むと、私たちは「人工知能」を開発し始め、ロボット工学の力を借りて、人工知能に自ら動き、物理世界と相互作用する力を与えようとしている。この変化こそが、第四の、新たな時代の幕開けを告げ、「ヒトであるとはどういう意味か」ということをも訴えかけつつ、当該分野でこれまでにない速さでブレークスルーが起こるだろう。私たちはおそらく人類史上最も重要な転換点に立っている。
物語り・その27

物語り その27

おおよそ1万年前「農業」が発明され、人類自体と社会全体が根本的に変化した。「都市」が誕生し、「分業」を引き起こした。また、人類は「土地を所有」することになり、経済的平等は終焉を迎え、「支配者」と「被支配者」に分かれた。そして、「第三の時代」はわずか5000年前、現在のイラク南部に居住していた「シュメール人」が「文字」を発明したことで幕を開けた。文字により支配者は「法典」を作成し、車輪、貨幣も世の中に同時に出現したことで国家と帝国を作るための基本的な素材が整ったため、大規模な文明が世界中で同時に花開いた。第三の時代では「活字の発明」など多くの革新的な進歩はあったが、新しい「第四の時代」に進むには、我々の存在や生活を大幅に永遠に変える何かが起きるまで待たねばならなかった。
物語り・その26

物語り その26

私たちの祖先は体内で行われる消化プロセスの一部を火を使ってアウトソーシングし、それによって得た大量のカロリーを使って比類なき複雑さを持つ「脳」を進化させた。そして私たちはもう1つの新たな技術である「言語」の創造に至った。言語はまさに大きな飛躍であり、歴史家ウィル・デュラントによれば、「言語が私たちを人間にした」。言語は、私たちが「情報を交換」することを可能にするとともに、人間が持つ特殊能力の1つともいえる「協力」を可能にした。言語のもう一つの大きな贈り物は「物語」である。物語とは私たちが進歩するために最初に必要だった「想像力」に形を与えるものであり、人間に最も重要な要素である。
物語り・その25

物語り その25

草食性の蹄のある動物や霊長類は、全て「暁新世・始新世境界温暖化極大期」の開始とともに突然出現し、その後の数千万年にわたる地球の寒冷化と乾燥化によりアジア、ヨーロッパ、北アメリカへと急速に広がった。中でもユーラシアは、人類が栽培化しやすく増加する人口を支えるのに適した野生の草本植物に恵まれるとともに、大陸の位置する方向自体が遠隔地間での作物の普及を大いに促進した。人間が農耕民として定住し文明の道を歩み始めた時、世界各地で家畜化・栽培化できる動植物の分布には偏りがあり、そのため初期の文明の多くは、ティグリス川とユーフラテス川、インダス川、ナイル川、黄河などの大河の土手沿いに出現した。
物語り・その24

物語り その24

農業と定住生活への最初の永続的な一歩「新石器革命」は約1万1000年前に起こり、人類を永遠に変えた。前3800年になると気候は再び寒冷化、乾燥し始めたため、農耕民は大規模な集落へと集結し、広域な灌漑システムを運用するようになった。そのため中央集権とさらに複雑な社会組織を必要とした結果、メソポタミアには最初の「都市化した社会」が誕生した。文明はまた、野生動物を家畜化し、全く新しい資源をもたらす「二次産物革命」を起こし、「乳」や輸送と牽引のための「役畜としての筋力」を得た。畜力は約6000年にわたり、産業革命が化石燃料を導入するまで文明の主要な原動力として絶大な地位を保ち続けた。
物語り・その23

物語り その23

新生代の寒冷化とともに東アフリカの森は縮小して草原に変わりホミニンの進化を促し、ミランコヴィッチ・サイクルの歳差運動のリズムが大地溝帯のアンプ湖の水位を目まぐるしく変動させ人類を非常に多芸で知恵のある種に進化させた。おおよそ六万年前、人類はアフリカから各地へ散り始めた。近縁種であるネアンデルタール人とデニソワ人は絶滅していったが、氷床による水の取り込みで海面が低下、大陸棚の大部分が露出したため、人類は南極大陸を除く全ての大陸に定住し、地球上で最も広範囲に生息する動物種となった。火の使用、衣服の作製、道具の製造などの技術を身につけ、熱帯からツンドラまであらゆる気候帯で生活することが可能となった。
物語り・その22

物語り その22

過去数百万年の間に東アフリカでは、地中から上昇するマントル・プルームによるプレートの引き伸ばしによる地殻変動が「大地溝帯」を裂き、高い崖と暑い谷底を含む特有の地形を創出するとともに、地球の軌道と地軸の傾きの周期性が地溝帯の谷底に存在する盆地を定期的に湖へと変貌させてきた。これらの湖はわずかな気候変動にすぐに反応し、この地域の生物全体に強い進化圧力をもたらすようになった。「ホミニン」の故郷となるこの特異な環境が、適応力のある、多彩な進化を促進したのである。「ホモ・サピエンス」の特徴である知能、言語、道具の使用、社会的学習、そして協力行動は、農業の発展、都市生活、そして文明の形成を可能にした。
物語り・その21

物語り その21

「パウリの排他原理」は原子内での電子配置を決定する普遍的な原理であり、この原理により「周期表」が決定される。そして、この表を網羅して生命の形成に適した元素を探すと、最も多様な分子を形成する元素として、その結合の可能性の広さから「炭素」が群を抜いている。炭素と水以外の元素が宇宙にどれだけの量が存在していたとしても、それらは生命の形成を促進する多様性の点で不足しているのである。さらに、宇宙には炭素化合物と水が豊富に存在するという事実から、地球以外の場所に生命が存在するとすれば、それは炭素と水に基づく可能性が高い。
物語り・その20

物語り その20

「生命の液体」として「水」という溶媒は非常に広範な用途を持つ物質である。生命という劇場で主役と端役の両方を演じる驚くべき能力を持つとともに、もう一つ重要な点は、水が液体として存在する温度範囲で、化学反応の速度が生物が損傷の原因(放射線、微細なスケールでの条件の変化、惑星規模での変動など)に対処しなければならない頻度と良好に一致している。しかも、水が宇宙に大量に存在しているため、その物理的特性は生物に適しているだけでなく、より広い宇宙の物理法則を考えると、新たな進化の実験が始まる際の惑星で利用できる一般的な溶媒になる可能性が示唆される。
物語り・その19

物語り その19

「進化」とは環境が有機体の構成要素を選択するフィルターの役割を果たす作用であり、その有機体では複雑に作用し合う「物理法則」が繁殖の成功を可能にするように最適化される。「細胞」と「進化」は深い結びつきを持っているが、そこには「イオン相互作用」という分子間に働く物理的原理と、「エネルギーを最小限」に抑える傾向があり、それが長い分子の連鎖を「細胞の袋」へと導くのである。他の惑星でも生命は分子を包み込んだ脂質から始まり、巨大な生物へと進化するという同じ旅に出ると推測される。生命の形態がどの段階まで進んでも、その過程全体を制御するのは、細胞内で作用する物理的原理である。