第二部 地球の誕生と原始進化
第1章 太陽系の誕生とその構造
1.太陽系の誕生
私たちの宇宙はいまから138億年前に生まれた。
宇宙の年齢にくらべて太陽系の年齢は約45.5億年と短く、約三分の一である。この年齢は地球に落下した始原的な隕石の放射性年代から求められている。近年、太陽系以前の物質と推定されるシリコンカーバイドやダイヤモンドなどの鉱物が、これらの隕石から見つけられている。これらの鉱物の年齢は46億年以上と推定されているが、まだ具体的な年代測定は成功していない。また、太陽系は約50億年後に赤色巨星化した太陽により加熱され、蒸発してしまい、最終的には外惑星を残し星間空間にガスとして散ってしまうと予想されている。

次に、太陽系の誕生過程について詳しく見ていこう。
宇宙空間には、周囲よりも密度の高い水素と低温(20K程度)の領域が存在する。これは「暗黒星雲」と呼ばれており、その中の大きなものは『巨大分子雲』(注10)と称されている。ここにはダスト(塵)やガスが存在し、それらは恒星及びその周囲の惑星や衛星の材料となる。

(注10)太陽質量の約1万倍以上の質量を持つ分子雲を指す。巨大分子雲の中には、しばしば大質量星を伴う星団が形成される。最も近傍の巨大分子雲はオリオンA分子雲である。
巨大分子雲の中心部は密度の高い部分から収縮を始め、一定の密度を超えると急激に収縮が進み、原始的な星が中心部に形成される。この原始星は周囲のダストとガスを吸収して大きくなり、一部が外部へ放出されて質量が減るものの、最終的には輝く星へと成長する。これは『T-タウリ星』と呼ばれる段階である。
太陽をはじめとする星は、主に水素とヘリウムのガスで構成されている。このため、『原始惑星系円盤』も99%がガスで形成されており、その中に1%ほどの固体物質がマイクロメートルサイズのダストとして存在する。星に近い温度の高い場所には主に鉄と岩石のダストが、星から遠い場所には氷のダストも存在する。なお、氷のダストが出現する軌道の温度下限を『雪線(スノーライン)』と呼ぶ。これらのダストは互いに付着・合体を繰り返し、最終的には数キロメートルの『微惑星』へと成長する。
微惑星は互いの重力に引かれ、衝突・合体を繰り返す。大きな微惑星ほど重力が強く、また大きさが大きいため衝突も頻繁に起こる。このことから、衝突・合体のペースが加速し、微惑星の中でも早期に大きくなったものがさらに大きくなる過程を「暴走成長」と呼ぶ。この暴走成長は原始惑星系円盤内で適当な間隔を保ちつつ進行し、結果として多く存在した微惑星が少数の「原始惑星」を形成する過程を「寡占成長」と呼ぶ。
原始惑星の大きさは地球軌道付近では火星サイズ(地球の重さの1/10程度)、雪線より外側の木星軌道付近では氷も固体物質として存在するため微惑星の量が増え、地球の約10倍のサイズまで成長する。

原始惑星は互いの重力によって軌道を乱し、最終的に衝突・合体を繰り返す。この原始惑星同士の衝突を『ジャイアントインパクト』と呼ぶ。地球の例をとると、火星サイズの原始惑星が約10個ジャイアントインパクトを繰り返し、地球サイズまで成長したと推定されている。
最終的に、原始惑星同士の間隔が広くなり、衝突・合体が終わった地点で『地球型惑星』の形成が完了する。なお、ジャイアントインパクトの際の衝突破片が原始惑星周りに散らばり、その破片が集まることで「月」が形成されたと考えられている。
原始惑星は大きさが増すにつれて、原始惑星系円盤内のガスを自身の重力で引き寄せ始める。原始惑星の重さが地球程度であれば、捕獲したガスは大気圧によって支えられ、原始惑星は安定した大気を持つことが可能である。しかしながら、原始惑星の重さが地球の約10倍に達すると、重力が強すぎて捕獲したガスを大気圧で支えきれなくなる。結果として、原始惑星系円盤内のガスが原始惑星に大量に流れ込み、そのまわりのガスが全て消失するまで流入が止まらないことで、『巨大ガス惑星』が形成される。これが『木星型惑星』である。
なお、星から遠い場所では原始惑星の形成が遅く、地球の10倍程度の原始惑星が完成した時点で原始惑星系円盤内のガスは既に消失しており、その結果、ガスを纏わない『巨大氷惑星』、つまり『天王星型惑星』が形成されると考えられている。
2.太陽系の構造

宇宙は、約138億年前のビッグバンによってその膨張を開始したとされている。この広大な宇宙は、無数の『小宇宙』を単位とし、それらは宇宙の果てへと高速で移動している。これら無数の小宇宙の中に、私たちの太陽系が含まれる『銀河系』が存在している。銀河系は渦巻き状の回転する円盤であり、中心がややふくらんだ薄い断面を示している。その中心には、現在の科学的な知見によれば『ブラックホール』が存在していると推測されている。
太陽系は、銀河の渦巻き状構造から伸びる腕の一部に位置しており、銀河の縁部に近い位置にある。太陽系は、銀河を公転しながら、約3000万年の周期で銀河の赤道面をやや上下に揺動している。銀河自体は2~3億年周期で回転しており、太陽系も地球を含むすべての構成要素が銀河の中心に対して2~3億年周期で回転している。この事実から、地球は太陽系の形成以降、すでに20回程度銀河を公転してきたと考えられる。

太陽を中心に公転する天体として、「8つの惑星」(表3)、「5つの準惑星」(注11)、それらを公転する「衛星」、さらに小さな「小惑星」や「隕石」、「彗星」が存在している。これらの天体はそれぞれ固有の周期と軌道を持ち、太陽を公転している。
(注11)太陽系の準惑星としては、『冥王星(Pluto)』、『エリス(Eris)』、『ケレス(Ceres)』、『マケマケ(Makemake)』、『ハウメア(Haumea)』の5つが知られている。冥王星は海王星の外側を公転する準惑星で、かつては惑星とされていたが、2006年にプラハで開催された国際天文学連合総会で惑星の定義が見直された結果、準惑星に再分類された。エリス、マケマケ、ハウメアも冥王星と同様に海王星の外側を公転する準惑星であるが、一方ケレスは火星と木星の間の小惑星帯に位置する準惑星である。

太陽系の惑星群は、太陽に一番近い水星から、金星、地球、火星、およびそれらの外側の小惑星帯までを包括する『地球型惑星』、木星と土星を包括する『木星型惑星』、そして天王星から外側の海王星、冥王星を包括する『天王星型惑星』、すなわち『巨大氷惑星』の3つのカテゴリーに分けることができる。地球型惑星は中心から半径の1/2が金属で、外側1/2が岩石で構成されている。木星型惑星は中心に小さな岩石核を有し、その周囲は水素で覆われている。天王星型惑星はガス層をまとっていない。
加えて、氷を主成分とし、小さな岩石片を含む『彗星』が存在している。これらの彗星は「汚れた雪だるま」の形状に似ており、太陽の周りを長い楕円軌道で公転している。彗星が太陽に接近すると、太陽風の作用により水蒸気が太陽の反対側に向けて吹き飛ばされ、これが長い尾として地球から観測される。これが彗星の別名『ほうき星』の由来である。
『小惑星帯』は、内側の地球型惑星と外側の木星型惑星との中間に位置している。小惑星帯は大きな惑星になり損ねた1万個以上の小惑星の破片で構成されている。この地域が地球のような天体になることができなかった原因は、外側に存在する巨大な木星の引力と関係があるとされているが、詳しい事情はまだ明らかになっていない。小惑星帯を形成している天体群は、いくつかのグループに分かれており、それぞれ固有の楕円軌道を描いて太陽を公転している。その結果、地球の軌道と時折交差し、地球に隕石が周期的に落下する。
冥王星の更なる外側には、さらに多数の天体が存在することが長い間推定されてきた。この地域はその存在を初めて予言したオランダの天文学者の名前を取って『カイパーベルト』(注12)と呼ばれている。ボイジャー探査機やハッブル宇宙望遠鏡によって、ここから次々と新たな天体が発見されている。この地域では、約45.5億年前に太陽近傍で始まった惑星の形成が、非常にゆっくりとではあるが今も進行中であると考えられている。このため、この地域は新たな発見が期待される重要な領域である。
(注12)カイパーベルトは、海王星の軌道の外側に存在し、太陽を公転する氷状の小天体から成る円盤状の帯である。これは「エッジワース・カイパーベルト」とも呼ばれ、オランダおよびアメリカ合衆国の天文学者ジェラルド・カイパーと、アイルランドの天文学者ケネス・エッジワースにちなんで命名された。外惑星が形成された際に残されたと考えられる数億個の小天体から成り、ほぼ太陽系の公転面に存在している。多くの短周期彗星、特に公転周期が20年未満のものや、巨大惑星域で公転する氷状のケンタウルス族小惑星の発生源とみなされている。
第2章 地球の原始進化
1.地球の誕生
地球の45.6億年に及ぶ歴史は、おおまかに四つの時代に区分される。
- 45.6~40億年前『冥王代』
(地球上の岩石や地層に記録がまったく残っていない時代という意味) - 40~25億年前『始生代』
- 25~5.5億年前『原生代』
- 最後の5.5億年間『顕生代』
冥王代以外の地質年代は、さらにいくつもの階層に細分されている。たとえば、顕生代はさらに『古生代』、『中生代』、『新生代』に三分され、古生代はさらに『カンブリア紀』、『オルドビス紀』、『シルル紀』、『デボン紀』、『石炭紀』、『ペルム紀』の六つに分けられている。顕生代以前をひとくくりに『先カンブリア時代』とよぶこともあり、またここでは省略するが、それぞれの紀もさらに細分されている。

地球史を通じて、地球が定常的な変化を経て現在に至ったわけではないことが明らかである。かつて火の玉であった地球は、宇宙空間の中で持続的に冷却してきたが、その冷却の仕方は一定ではなかった。地球内部からの熱の放出と、固体地球内部での物質の移動は、非定常的に起こり、地球は時折、急激に内部熱を放出して冷却した。そしてその過程で、急激な変化が地球の内部、大気・海洋、および高層大気圏などの構造や組成に大きな変化を与えた。
ある場合にはその変化は不可逆的であって、二度と同じ状態に戻ることがないような性質のものであった。
地球の歴史としてもっとも重要な事件をあげるとすれば、そのような不可逆的な事件が取り上げられる。主な事件は次の七つに要約できる。
- 微惑星の衝突付加によって地球の基本的な成層構造の形成(45.6億年前)
- プレートテクトニクスの開始、生命の誕生、そして大陸地殻の形成の開始(40億年前)
- 強い地球磁場の誕生と酸素発生型光合成生物の浅海への進出(27億年前)
- はじめての超大陸の形成(19億年前)
- 海水のマントルへの注入開始、太平洋スーパープルームの誕生と硬骨格生物の出現(7.5~5.5億年前)
- 古生代と中生代の境界での生物大量絶滅(2.5億年前)
- 人類の誕生と科学のはじまり(500万年前~現在)
このような大事件を経験しながら現在の地球が形成された。では、その原初の時代ではどのような進化を辿ったのかを、まず見ていく必要がある。
今から45.6億年前、生まれたばかりの原始太陽系の中で『原始地球』が誕生した。
原始星雲の中のダストが固まってできた小さな隕石が次々と集って、直径10キロメートル程度の『微惑星』をつくり、微惑星はさらに衝突・合体をくりかえし、雪だるま式に大きくなっていった。そして、その最終段階では、『原始惑星』と呼ばれる火星ほどの大きさの天体に成長し、それらがお互いに衝突をして地球のようなより大きな「岩石惑星」に成長した。このような原始惑星同士の衝突のことは『巨大衝突(ジャイアント・インパクト)』と呼ばれており、地球や金星は複数回経験したと考えられている。こうして原始地球が造られたのである。
原始地球が、現在に近いサイズにまで成長した後も、周辺に取り残された隕石がときどき落下し、地表に大きな孔(クレーター)を開けていたことが、月の研究からわかる。このことは、地球の形成期にも多くの隕石が落下していたことの一つの傍証である。アメリカのアポロ計画によって月の物質と年代、クレーターの形成時期、回収した試料の岩石学的な研究から、形成期の月はマグマの海『マグマオーシャン』に覆われたことがわかった(注13)。
(注13)その根拠は次のとおりである。月の表面で白っぽく見える場所の岩石は最も古く、約45億年前にできたものである。それは「斜長岩」という岩石で、ほぼ「斜長石」という鉱物だけでできている。月面に置いた地震計の観測によって、斜長岩でできた月の地殻の厚さは約100キロメートルもある(地球の地殻は40キロメートル以下)ことがわかった。マグマからできる斜長岩を短期間に大量に造るには、200~400キロメートルの深さのマグマオーシャンが必要で、その中でマグマよりも軽い斜長石を浮かべて固化させる以外に方法がないのである。
月の半径は地球の半径の四分の一にすぎない。それほど小さな天体であっても大規模なマグマオーシャンが形成されたという事実から、地球の生成には月よりも遥かに大規模な微惑星の衝突・合体が起こったと推定できる。その結果として、地球もまた大規模なマグマオーシャンの段階を経験したと推測される。
また、もし月が『ジャイアントインパクト』でできたならば、地球はその時に中心まですべて液体、つまりマグマになったはずである。というのは、『ジャイアントインパクト説』とは、月がどうしてできたかを説明する理論の一つで、地球形成期の末期に火星くらいの大きさの天体が地球と衝突したことが原因だというものである。この説では、月を作った物質はもともと地球に衝突した別の惑星のマントルであり、その惑星内部にすでにマントルと核の化学組成の分離がおきていたとする。衝突・飛散した物質の大部分は、無限遠の宇宙空間へ飛び去るか、または地球で落下するかのいずれかであるが、たまたま天体力学的にうまくつりあった場所に月ができたと考える。ジャイアントインパクトは莫大なエネルギーを地球に与え、地球全体がマグマ化したと推測されている。

また、他の説では、巨大な隕石が地球に落下すると、落下地点は高温になり、隕石に含まれていた揮発成分が蒸発する。その繰り返しにより原始大気が形成され、その組成は時間とともに変化していった。一方、隕石の衝突・集積によって原始地球はしだいに大きくなっていった。そして、火星サイズまで成長したときに、衝突エネルギーの蓄積と原始大気の温室効果によってマグマオーシャンの形成がはじまり、地球の表層は部分的に融け、岩石から鉄が液体として分離し始めた。
このような理由によって、原始地球はマグマオーシャンに覆われたと考える説が有力である。ただし、マグマオーシャンの深さについてはいろいろな意見がある。表層から2000キロメートルを超える深さまであったとする説、もっと浅かったと考える説、さらに、すべてがマグマオーシャンだったとする説がある。
なお、鉄は岩石よりも重いのでマグマオーシャンの底に沈み、下部マントルの部分溶融した岩石の中をかきわけて、一気に地球の中心に向かって崩落しはじめる。すると、落下する鉄が解放する重力エネルギーによって、地球の内部は急激に高温になるとともに核が形成され始めた。こうして、45.6億年前に現在の地球に近い「成層構造(核、マントル、マグマオーシャン、原始大気)」が生まれたのである。
地表が高温であったため、厚い原始大気層内では激しい対流が発生した。原始大気層は超低温の惑星間空間と連続しているため、大気(水蒸気と二酸化炭素を主成分とする)は急冷され、雨になった。そして、地上に向かって落下する雨は、地表近くの高温マグマオーシャンによって熱せられ、再び蒸気となって上昇した。
地表が冷えて下降する雨が再び蒸気となる下面が、ついに地表に達したとき、『原始海洋』の誕生となる。ただし、原始海洋がいつできたかは、どのような惑星形成モデルをあてはめるかによって、大きく異なってくるが、ここでは、地球上に残された証拠から、大規模な原始海洋の形成は約40億年前と考える。

原始大気層を通してマグマオーシャンの熱は徐々に宇宙空間へ逃げ、その表面は固化していった。その頃の地球表層は、『プルームテクトニクス』(注14)が支配していたと考えられる。冥王代の地球ではこのようなプルームテクトニクスが最初の6億年を支配した。
(注14)マントル内の大規模な対流運動を『プルーム (plume)』 と呼び、この変動は『プルームテクトニクス』と命名された。『プレートテクトニクス理論』が地球の表面に存在するプレート(厚さ約100km)の変動を扱うのに対し、この説では深さ2,900kmに達するマントル全体の動きを考察する。なお、『テクトニクス』とは、地質学において地球や地球以外の惑星の主に岩石圏の動きを指す用語である。
マグマオーシャンの固化はいつ完了したのだろうか。月のような小さな天体でさえ、約200~400キロメートル厚さのマグマオーシャンの固化には、2億年の時間がかかったと考えられている。月よりももっと大きな地球では、さらに長い時間が必要だったと推察される。ここでは、マグマオーシャンの完全な固化には43億年前頃までかかったと見なそう。また、マグマオーシャンが深く、1000キロメートル以上あったとするならば、固化の過程で、深さによって異なる化学組成をもつマントルが形成された可能性が高いと考えられる。
2.原始海洋・花崗岩・プレートテクトニクス
40億年前の地球では、『原始海洋』ができ、その結果、はじめて『花崗岩』が形成されたと推定されている。これらの仮説は、カナダ北部のアカスタ地域やグリーンランドのイスア地域から得られた岩石の情報に基づいている。

もし地球の表層に海水がなければ、金星やかつての火星のように、プルームテクトニクスによって、マントル内部へ表層の二酸化ケイ素(SiO2)の少ない玄武岩質海洋地殻が沈みこんだとしても、溶融して花崗岩をつくることができないからである。
海水が存在すると、玄武岩質地殻は形成直後に地殻の中にしみこんだ高温の海水である「熱水」と反応して含水鉱物を造る。すると、岩石が溶融する温度が著しく低下するために、沈みこんだ含水地殻は約30~50キロメートルの深さで溶融してSiO2に富む酸性のマグマを生じ、地表へと上昇していき、花崗岩となる。これが、地球でだけ特徴的に大量の花崗岩が造られる原因である。
金星や月でもわずかの花崗岩が見られるが、それらは玄武岩質マグマの結晶分化作用(マグマの冷却・固結が進むにつれて,元とは異なる化学組成のマグマや岩石が生じる作用)で形成されたと推察される。
地表の温度が、海水が蒸発せずに存在できる程度にまで下がると、表層の岩石が剛性化して『プレート』が形成され、『プレートテクトニクス』が機能し始める。この地球表面の急激な温度低下は、原始海洋が大量の二酸化炭素を急速に吸収したことに起因する。大気中の二酸化炭素が急速に減少すると、温室効果が消失し、地球内部の熱が宇宙空間に放出されやすくなったのである。
原始海洋の海水量が増加し、大気中の二酸化炭素が減少する過程が進むと、地球表面の温度は、ある試算によれば1000℃を超える高温状態から、1000年で一気に130℃まで下がる。この温度下では、地表では直線状の亀裂(海嶺)の上で新しいプレートが生まれ、水平方向へ移動して海溝に到達し、そこでマントルに沈みこむ状況が生みだされた。
これが、『原始海洋の誕生』、『プレートテクトニクスの開始』、『花崗岩の形成』という三つの現象が同時に出現した因果関係である。


地上最古の花崗岩は前述の『アカスタ片麻岩』であり、その年代はほぼ40億年前の値を示す。
『イスア地域』では、39~38億年前にすでに、現在の地球と同じようなプレートテクトニクスによって、花崗岩や付加体(海洋プレートが海溝で大陸プレートの下に沈み込む際に、海洋プレートの上の堆積物がはぎ取られ、陸側に付加したもの)の形成がおきていたことがわかっている。また、海水の存在した直接的な証拠である、溶岩が水中で固化するときに特徴的に形成される『枕状溶岩』の存在が確認されている。
要は、

- 地球では40億年前に、海水が蒸発せずに地表に存在できるまで表層の温度が低下することにより、原始海洋が形成された。
- そして、その海洋が二酸化炭素を吸収したために地球は一層冷却し、それまでの「プルームテクトニクス」から、表層の岩石が剛体化して「プレートテクトニクス」が機能するようになった。
- 地上最古の花崗岩が前述の『アカスタ片麻岩』であり、その年代はほぼ40億年前の値を示すことに表われている。地球の変動を支配するプレートテクトニクスは、地球を覆う蓋(地殻)が水を含むために、流動性や脆弱性によって動くことができたのである。水が存在しない金星では剛体の蓋がしっかり地殻を固め、その下でマントルが対流するだけで、地殻(プレート)が移動することはなかった。
- かくして、地球には海水が存在し、表面の70%が海洋となった。これが地球と他の惑星との決定的に違う点である。そして40~38億年前からプレートテクトニクスが作動して沈み込みによって地球の内部に持ち込まれた水を媒介として海洋地殻が変質し、同時に安山岩質のマグマを生産していることが最大の特徴である。
- そして、これらの特徴が、次の部で述べるように、『生命』という革新的な有機システムを地球に誕生させるきっかけを創りだしたのである。
最後に、後述の情報を含め、地球の特徴をまとめて考察すると次の通りである。しかも、これらの特徴はすべて強く結びついている。
- 表面が水(H2Oの水と氷)に満ちた唯一の惑星
- 酸素が豊富な大気を有する唯一の惑星
- 珪素に富む岩石(花崗岩等)を多量に持つおそらく唯一の惑星
- 表面の高度分布が2つのピークを持つ(バイモーダルな、図24参照)、すなわち、海と陸から成る、おそらく唯一の惑星
- 地球型惑星の中では唯一の強い固有磁場を持つ惑星
- 生命のいる唯一の惑星?

図表
図12 太陽の一生
北海道大学オープンコースウェア、
ScienceLiteracy2-2011-Text-16「第16章 天文学と星の進化」
(https://ocw.hokudai.ac.jp/wp-content/uploads/2016/01/ScienceLiteracy2-2011-Text-16.pdf)
図13 太陽系形成の標準シナリオ
小久保英一郎「太陽系形成の標準シナリオ」
自然科学研究機構 国立天文台編 理科年表オフィシャルサイト,2007年8月(https://www.rikanenpyo.jp/top/tokusyuu/toku2/index.html)
図14 ジャイアント・インパクトの想像画(NASA作成)
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「ジャイアント・インパクト説」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E3%83%88%E8%AA%AC)
図15 観測データに基づいた銀河系の想像図
天文学辞典、銀河・銀河団、天の川銀河、天の川銀河
(https://astro-dic.jp/milky-way-galaxy/)
図16 太陽系の構成
参考文献2
図1.4「太陽系の大構造」、11頁
表3 太陽系の惑星の分類
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「木星型惑星」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%A8%E6%98%9F%E5%9E%8B%E6%83%91%E6%98%9F)
図17 地質時代区分
参考文献4
19頁「最新版の地質時代区分」
図18 原始地球成層構造の形成
週刊エコノミストOnline、資源・エネルギー・鎌田浩毅の役に立つ地学
(https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220426/se1/00m/020/060000c)
図19 プルームテクトニクス
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「プルームテクトニクス」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%86%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%8B%E3%82%AF%E3%82%B9)
図20 花崗岩の形成
香美町立 ジオパークと海の文化館、ジオパークフロア
(https://geo-umibun.jp/nihon-2/)
図21 プレートテクトニクス
国立研究開発法人防災科学技術研究所Hi-net高感度地震観測網
「観測網概要/研究成果など」・地震の基礎知識とその観測
・4章地震はなぜ起きるのか/4.1 プレートテクトニクス
(https://www.hinet.bosai.go.jp/about_earthquake/part1.html)
図22 アスタカ片麻岩とその露頭
神奈川県立生命の星・地球博物館、特別展「人と大地と」
(https://nh.kanagawa-museum.jp/kenkyu/epacs/museum4/1b02.htm)
図23 枕状溶岩
京都府レッドデータブック2015、地形・地質・自然現象・地質・枕状溶岩(https://www.pref.kyoto.jp/kankyo/rdb/geo/db/soi0072.html)
図24 地球の標高分布:バイモーダル
沖野郷子、東京大学・大気海洋研究所・海洋地球システム研究系海洋底科学部門
(http://ofgs.aori.u-tokyo.ac.jp/~okino/ofgd18/ofgd18-01history.key.pdf)